ドイツ詩とリートの世界

リートを詩の解釈の面から探求していくブログ

シューベルト、シューマン、ヴォルフ他 『孤独に身を委ねる者は』

Wer sich der Einsamkeit ergibt

 

Wer sich der Einsamkeit ergibt,
Ach! der ist bald allein;
Ein jeder lebt, ein jeder liebt
Und läßt ihn seiner Pein.


Ja! Laßt mich meiner Qual!
Und kann ich nur einmal
Recht einsam sein,
Dann bin ich nicht allein.


Es schleicht ein Liebender lauschend sacht,
Ob seine Freundin allein?
So überschleicht bei Tag und Nacht
Mich Einsamen die Pein,


Mich Einsamen die Qual.
Ach, werd ich erst einmal
Einsam in Grabe sein,
Da läßt sie mich allein!

 

                       - Johann Wolfgang von Goethe

 

ゲーテです。弱強格のリズムでかちっとした感じの中に叙情性を漂わせるいかにもゲーテという詩です。出典は『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』から、竪琴弾きの老人が歌う歌の一つとして非常に有名なものです。

 

ドイツ叙情詩を代表する非常に有名な詩ですので、多くの作曲家が作曲していますが、特にF. シューベルト、R. シューマン、H. ヴォルフのものが有名で代表的な作曲でしょう。

 

第1節

1:1 Wer sich der Einsamkeit ergibt,
1:2 Ach! der ist bald allein;

 

感嘆詞のachを抜くとwer~, der・・・で「~な人は・・・」という文章構造が見えます。werはいわゆる先行詞を持たない関係代名詞、derは関係代名詞では無く指示代名詞で、枠構造を取るかどうかで判断できます。

werは1格なので当然主語、動詞はergibtで目的語にsich(4格)を取って「~(3格)に自分を委ねる」という文章を作ります。ここではder Einsamkeit(孤独)が3格名詞です。

2行目はシンプルでder ist allein. 「その人は一人ぼっち」に副詞のbaldが付いて『ごく近い未来』を示します。

詩全体が弱強のリズムの中で、この2行はwerとachに強調が置かれて始まるので、非常に印象的な出だしです。


1:3 Ein jeder lebt, ein jeder liebt
1:4 Und läßt ihn seiner Pein.

 

ein jeder~が繰り返されていますが、jederがここでは名詞で「誰でも」で、それに不定冠詞のeinが付いた形です。「誰でも」に不定冠詞を付ける意味はあるのか?と疑問に思わなくは無いですが、文法的には問題無く、特に意味は無いけれど抑揚上付けただけかもしれません。

undで2つの行が繋がっており、4行目の動詞läßtの主語も当然ein jederです。läßtはergibt同様に「~(4格)を・・・(3格)に委ねる」という他動詞で、それぞれihnとseiner Peinが4格と3格。

 

第2節

2:1 Ja! Laßt mich meiner Qual!

 

jaはやはり感嘆詞なので置いといて、動詞laßtから始まって感嘆符で終わってるので命令文なのは分かるでしょう。このlaßtも1:4と同じく「~(4格)を・・・(3格)に委ねる」。


2:2 Und kann ich nur einmal
2:3 Recht einsam sein,
2:4 Dann bin ich nicht allein.

 

2行目と3行目が繋がって1つの文になっています。

接続詞Undの後にkann ichと動詞+主語の順序になっているため、倒置法(仮定表現)と気づくかどうかが初級者から上に進めるかの一つの目安になるでしょう。

構文の成分はkann ich einsam seinで「私が孤独でいられるなら」となります。

einmalは「一度」という意味から、未来の「いつか」と過去の「かつて」という2つの意味に分かれる副詞ですが、ここは未来と推測できます。

rechtはとても意味の多い形容詞/副詞ですが、「まさに・まさしく」から「本当に」という意味になります。

4行目がdann(その時には)で始まる主文。dannは副詞なので続いて動詞が来るのが自然です。

 

第3節 & 第4節

3:1 Es schleicht ein Liebender lauschend sacht,
3:2 Ob seine Freundin allein?

 

1行目はesで始まっていますが、本当の主語はein Liebender(現在分詞の形容詞的用法から男性名詞に変化して「恋愛をしている人」)。動詞schleichtは「音を立てずに忍び歩く」。

現在分詞のlauschendはちょっと解釈に悩む箇所です。「耳を澄ましながら」の意味で、「恋人の気配がしないか耳を澄ましながら」という意味にも、「自分の足音が極力しないように耳を澄ましながら」という意味にも取れると思います。lauschenには「密かに見張る」の意味があり、前者の方が自然でしょうか・・・

2行目はOb~「~かどうか」の疑問文。動詞istが省略されています。


3:3 So überschleicht bei Tag und Nacht
3:4 Mich Einsamen die Pein,

4:1 Mich Einsamen die Qual.

 

第3節と第4節が1つの文章で繋がっています。あまりありませんが、ルール違反というほどの事でも無く、時に見られます。

3行目に主語になれる名詞が無いですが、動詞überschleichtはマイナーな動詞ですが、schleichenにüberが付いて「忍び寄って覆い被さってくる」という感じでしょうか。

bei Tag und Nachtは「昼も夜も」という頻出表現の副詞句。

3:4と4:1は同じ形で、michがあるのでここが主語と目的語というのは分かるでしょう。

主語がdie Peinとdie Qualと当たりを付けてみると、Einsamenが形容詞の名詞化「孤独な者」で、Mich = Einsamenで「孤独な者である私に」でまとまって目的語となることが推測できるかと思います。

 

4:2 Ach, werd ich erst einmal
4:3 Einsam in Grabe sein,
4:4 Da läßt sie mich allein!

 

2:2~2:4と同じような文章の作りです。

2行目は感嘆詞achを取ると、やはりwerd ichと動詞+主語の倒置法。werd ich einsam sein 「私が孤独になったら」が構文成分です。

4行目が副詞da(その時には)で始まる主文。このläßtは「~(4格)を・・・(形容詞)の状態にしておく」という用法です。

さて、主語のsieはなんでしょうか?動詞はläßtと単数形ですので、「彼ら・彼女ら・それら」では無く、女性名詞です。Freundinから「恋人(彼女)」で訳すこともこの1文では可能ですが、「代名詞は一番近くにある可能性のある名詞を探す」のが鉄則。ここはGrabが中性ですので4:1のdie Qualで解釈すると最終的に全体の意味がスッキリします。ただ3:4のdie Peinもあります。実際そのどちらでもあるでしょう。だったら複数形にすれば良いのでは?という気もしますが、文法上の『数の考え方』の深い部分に入っていく話になるので、ここでは敢えてスルーで・・・

最後に4:2のerstの解釈を考えると、「PeinとQualが昼も夜も忍び寄ってくるけれど、いつか私が墓に入って『初めて』孤独になったら、その時はPeinとQualも私を一人にしてくれる」と読み取れます。こう解釈すれば、4:4のsieをFreundinから「恋人(彼女)」で解釈する方がずっと無理があると感じられるでしょう。