ドイツ詩とリートの世界

リートを詩の解釈の面から探求していくブログ

シューマン、メンデルスゾーン他 『誰も知らない、誰も分からない』

Es weiß und rät es doch keiner

 

(1) Es weiß und rät es doch Keiner,
Wie mir so wohl ist, so wohl!
Ach, wüßt’ es nur Einer, nur Einer,
Kein Menschen es sonst wissen soll!


(2) So still ist’s nicht draußen im Schnee,
So stumm und verschwiegen sind
Die Sterne nicht in der Höh,
Als meine Gedanken sind.

 

(3) Ich wünscht', es wäre schon Morgen,
Da fliegen zwei Lerchen auf,
Die überfliegen einander,
Mein Herz folgt ihrem Lauf.


(4) Ich wünscht’, ich wär’ein Vöglein
Und zöge über das Meer,
Wohl über das Meer und weiter,
Bis daß ich im Himmel wär’!

 

                          - Joseph von Eichendorff

 

ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフによる、もともと有名ですがローベルト・シューマンの作曲でさらに有名になったという詩です(シューマンは第3節を省略してますが・・・)。全体としては弱強格のリズムですが、頻繁にそれをずらし、しかしそれによって強調されるべき言葉が『自然と』強調されるのがこの詩の素晴らしいところです。

 

第1節

1:1 Es weiß und rät es doch Keiner,
1:2 Wie mir so wohl ist, so wohl!

1行目はesから始まってますが、これは代用で本当の主語はkeiner(誰も~ない)です。

2つの動詞weiß und rät(分かる/言い当てる)の後にもesがあり、こちらは目的語となる名詞節の代用。

さらに強調のdochが置かれることでリズムが規定されています。

2行目が感嘆文の形でweiß und rätの目的語となる副文。

wohlは辞書を引くと多くの意味が書かれている副詞でちょっと悩みますが、基本的には「十分な状態」のイメージで、ここれは「幸福な」くらいです。Wie mir wohl ist. で「私がどれほど幸福か」という名詞節になります。wohlとセットで本来主語になる1格名詞がmirで代用される割とお馴染みの言い回しです。

この行も強調のsoが2度置かれることでリズムが綺麗去れています。


1:3 Ach, wüßt’ es nur Einer, nur Einer,
1:4 Kein Menschen es sonst wissen soll!

 

1,2行目と同じく3行目の動詞wüßt’の目的語の名詞節が4行目です。

3行目の主語はやはりeinerで、文法的には不定代名詞einの男性1格で「ある一人」。男性1格ですが、実際の性としての女性が対象になることを否定している訳では無く、一般としての「人」です。nur einerで「1人だけ」。やはりこの繰り返しがリズムで重要です。

wüßt’は接続法で、ここでは『容認』や『願望』で「知ってもいい」「知って欲しい」といったニュアンス。どちらで解釈するか趣味の分かれるところでしょう。

1行目のesは面白いところで、主語の代用にも目的語の代用にも見える部分です。本来はes wüßt’ es nur Einerという文章で、ここで主語と動詞の順番を入れ替える倒置による『譲歩』表現を使うとwüßt’ es es nur Einer(1人だけなら知ってもいい)となってesが重なるため、1つで済ませます。多分主語の方が省略されているはず・・・

4行目でやっと主語Kein Menschenが頭に来ました。動詞wissen sollも最後に置かれて普通の枠構造です。esは当然目的語。

sonstは「その他には」という意味の副詞。

 

第2節

2:1 So still ist’s nicht draußen im Schnee,
2:2 So stumm und verschwiegen sind
2:3 Die Sterne nicht in der Höh,
2:4 Als meine Gedanken sind.

 

4行で1つの文章というちょっと長い文です。soから始まる節が2つ(1行目と2,3行目)と、als~の節という構造をぱっと見で分かると初級者としては十分なレベルだと思います。

比較級表現とセットで習いますが、so 原級 als~で「~と同じくらいに」という重要な同等表現です。

4行目は形容詞省略で「私の思いが・・・である」となりますので、meine Gedankenと同じくらいstill / stumm und verschwiegenだというのがsoから始まる節が2つの内容です。

1行目はdraußenが副詞「屋外で」。主語のesは文法的には非人称代名詞で天気や時間を表現する文章の際に用いられ、ここではes ist stillで「静かだ」となります。

2,3行目は主語がDie Sterne(複数)で、文法的にはシンプルです。

 

第3節

3:1 Ich wünscht', es wäre schon Morgen,
3:2 Da fliegen zwei Lerchen auf,
3:3 Die überfliegen einander,
3:4 Mein Herz folgt ihrem Lauf.

 

第3節も4行で1文で、節がたくさんあってややごちゃごちゃした印象を受けるかもしれませんが、1つずつ見ていきましょう。

 1行目は後半の節にwäreと接続法が使われてますので、 wünscht'と対応して『非現実』の接続法による願望表現と分かります。

このesも時間を表す文章での非人称代名詞で、「すでに朝だったら」となります。

2行目はzwei Lerchen(2羽の雲雀)が主語、分離動詞auffliegen(飛び上がる)が動詞です。

行頭のdaは副詞「その時」。

3行目のdieは次に動詞überfliegen(飛び越す)が続いてますので、関係代名詞と分かります。複数1格ですので受けているのは当然zwei Lerchen.

4行目は文法的にはシンプルで問題無いでしょう。

個人的な印象ですが、この詩の中で第3節だけが文法的にもリズム的にも印象に乏しく、起承転結の転としては結の第4節に比べて落差があり過ぎます。シューマンが省いたのは十分理由があるでしょう。

 

第4節

4:1 Ich wünscht’, ich wär’ein Vöglein
4:2 Und zöge über das Meer,
4:3 Wohl über das Meer und weiter,
4:4 Bis daß ich im Himmel wär’!

 

第4節もごちゃごちゃして見えるでしょうか。

1行目はやはりwünscht’と接続法wär’がセットで置かれていて、3:1と同じ構造です。

ich wär’ein Vögleinは『非現実』の接続法を学ぶ時に誰もが目にする文章でしょう。zögeはziehenの接続法でüber~とセットで「~を越えて行く」。接続詞undで繋がっていますので主語は当然ichです。

3行目は動詞が無いので副詞句と判断してとりあえずスルー (weiterとbisに目を付けてセットで考えても良いでしょう)。

4行目のbis daß節(~まで)は動詞がやはりwär’で『非現実』の接続法。ざっと訳すと「私が天にいるまで」と読め、「小鳥になったら飛んで天まで行きたい」くらいのニュアンスが窺えます。

3行目を見てみるとまた副詞 wohlがありますが、ここでは「十分な状態」のイメージからそのまま「十分に」という意味になり、über~und weiterとセットで「~を十分に越えてさらに遠くへ」と解釈できます。

 

倒置表現だったり接続法だったりと文法的にややテクニカルですが、アイヒェンドルフの詩作技術が散りばめられた素晴らしい詩ですので、初級者が学ぶ上で非常に有益だと思います。

 

作曲はローベルト・シューマンがDie Stilleという曲名で行ったものop. 39 Nr. 4が非常に有名で、この詩の特徴的なリズムを最大限に活かしたリート史に残る名曲ですが、他の作曲家による作曲も当然ながら非常に多く、第4節での展開が印象的なフェリックス・メンデルスゾーンのものも良く知られています。