ドイツ詩とリートの世界

リートを詩の解釈の面から探求していくブログ

シュトラウス 『目覚めたバラ』

Die erwachte Rose

 

Die Knospe träumte von Sonnenschein,
Vom Rauschen der Blätter im grünen Hain,
Von der Quelle melodischem Wogenfall,
Von süßen Tönen der Nachtigall,
Von den Lüften, die kosen und schaukeln,
Von den Düften, die schmeicheln und gaukeln.

 

Und als die Knospe zur Ros’erwacht,
Da hat sie milde durch Tränen gelacht
Und hat geschaut und hat gelauscht,
Wie’s leuchtet und klingt,
Wie’s duftet und rauscht.

 

Als all ihr Träumen nun wurde wahr,
Da hat sie vor süßem Staunen gebebt
Und leis geflüstert: Ist mir’s doch gar,
Als hätt ich dies alles schon einmal erlebt.

 

                                       Friedrich von Sallet

 

リートでは『花』をテーマにした作品が非常に多いです。今回はシュトラウスが若い頃に作曲したフリードリヒ・フォン・ザレットの詩を読んでみましょう。ザレットは19世紀前半の軍政批判の時代に活躍した風刺詩で知られた詩人だそうですが、この詩のように風刺的な要素が感じられないものも多く書いています。ザレットは詩の表題は付けておらず、シュトラウスが多少原詩に手を加えて"Die erwachte Rose"の表題を付けました。冒頭にはシュトラウスが手を加えたものを掲載し、以下では原詩を読んで適宜注釈していきます。

 

第1節

1.1 Die Knospe träumte von Sonnenschein,
1.2 Vom Rauschen der Blätter im grünen Hain,
1.3 Von der Quelle melodischem Wogenfall,
1.4 Von süßen Tönen der Nachtigall,
1.5 Und von den Lüften, die kosen und schaukeln,
1.6 Und von den Düften, die schmeicheln und gaukeln.

 

1行目は動詞träumemがvon~(3格)で「~の夢を見る」の意味になりますので、過去形で「蕾(Knospe)が太陽の光の夢を見た」となります。2行目以下はvon~が並んでるので、何の夢を見たかが並んでいると分かります。

2行目のRauschenは叙情詩では超頻出単語で、葉っぱのこすれる音や川の流れる音など「ザワザワ、サラサラとした音」を指す擬音です。der Blätterが2格なのでここでは「木の葉のざわめき」ですね。

3行目はder Quelleが2格。Quelleは井戸か泉を指しますが、Wogenfallが「波」+「落ちること」なので、泉の方と分かります。

5行目、6行目はUndから始まるのをシュトラウスが省略してVonからにしています。2行ともden Lüftenとden Düftenにdie以下の関係代名詞節が付いていて、シュトラウスがkosen(愛撫する)を繰り返しているのが印象的な部分です。

 

第2節

2.1 Und als die Knospe zur Ros' erwacht,
2.2 Da hat sie mild durch Tränen gelacht
2.3 Und hat geschaut und hat gelauscht,
2.4 Wie's leuchtet und klingt,
2.5 Wie's duftet und rauscht.

 

第2節は蕾が開きます。

1行目のzur Ros' erwachtで「夢から目覚めてバラの花へと咲く」ということになります。

2行目のsieは女性名詞を受ける代名詞で、当然die Knospeのことです。mildをシュトラウスはmildeと変えていますが、作曲上の抑揚の問題でしょうか。durch Tränen lachenはちょっと分かりにくいですが、「涙越しに微笑む」から「泣きながら微笑む」といったイメージです。

3行目もsieに対応する動詞がundで繋がっており、schauenもlauschenも「『注意を向けて』見る・聞く」というニュアンスの動詞です。

4行目、5行目が何を見て、聞いたかで、wie es ~は非人称のesの用法で「周囲がどんなふうに~するか」となります。

 

第3節

3.1 Als all ihr Träumen nun wurde wahr,
3.2 Da hat sie vor süßem Staunen gebebt
3.3 Und leis geflüstert: Ist mir's doch gar,
3.4 Als hätt ich das alles schon einmal erlebt.

 

第3節は夢から目覚めて花咲き、周囲を見聞きしたバラの反応です。

1行目のihr Träumenは女性の所有代名詞で「蕾の夢」。wurde wahrで「(夢が)現実になった」。nunは細かくいろいろなニュアンスで使いますが、ここは「今こうして」といった感じ違和感は無いでしょう。

2行目のStaunenはこの詩の重要な単語です。「驚き」の意味ですが、特に良い意味で「感嘆」といった訳し方がされることが多いです。「恐怖感からではない、身の震えるような感動的な驚き」といったニュアンスです。ここでもvor Staunen bebenで「感動で震える」という表現が使われてます。

3行目と4行目はleis flüstern「そっと囁く」の内容がコロン以下。leiseも頻出の形容詞・副詞で「小さな音で」のニュアンスです。

コロン以下はちょっと難しいです。Ist mir's doch garはdoch garが共に強意。es ist mir~で「私にとっては~だ」といった訳ができるでしょうか。als以下で接続法2式のhättが使われてますので、「私にとっては、まるで~なようだ」という訳せるのに気づければ十分中級レベルです。als以下はerlebenが「身をもって体験する・経験する」で、schon einmalが「もうすでに一度」。つまり夢で見ていたとおりの現実がそこにあることの感動の囁きです。シュトラウスはdasをdiesに変えて強めており、これは納得の修正でしょう。

 

何人かの作曲家が作曲していますが、やはりシュトラウスの作品は非常に素晴らしいもので、第3節のStaunenの扱いから静かな囁きへの流れは流石の一言です。